カッとんでる『運命の力』

2024年春。

3月の春休み中に、16歳の息子とメットの新演出『運命の力ーLa forza del destino 』(Verdi)を観てきました。

本当は、operaクラスで皆さんと行こうか迷ったんですが、このオペラはVerdiの中でも玄人好みということで、予習講座だけ開き、各自お好きな時に見に行って頂きました.

日本では、今週末(4・18~)から松竹系映画館で配信が始まりますね。

今回の演出は、昨年既にポーランドのTeatr Wielki-Polish National Operaで上演され、同ハウスとメトロポリタンオペラとの共同プロダクションです。

演出家のMariusz Trelinskiは、映画監督出身ですが、今は沢山のオペラを手掛けています。

私が実際観た彼のメット作品では、とてもモダンな『青髭公の城 Bluebeard Castle』、『トリスタンとイゾルデ』があります。

スタイリッシュでシンプル、でもそれなりにインパクトがありました。

Mariusz Trelinskiが何を表現したくての演出かを語った、インタビューが興味深いです。メットのYTにもあるので、こちらを参照ください。

演出の種明かしをしてしまうのは、面白くないかも?だけど、時代設定は、特定されていない現代。

場所も特定限定されていません。

でも、時代設定が変わっても、それぞれのキャラクターが持つ、そして彼らが思いこむ人間関係が、彼らの運命を指示し操っているーというストーリーのコアは、同じまたは、もっとデフォルメされている(というかしたい?)演出だと思います。

100万人に一人の声・リセ・ダビデセン

今回の『運命の力』の注目点は、新演出と、世界で引っ張りだこの、新星(といってももう沢山歌ってて、知名度も高い)リセ・ダビデセン。

ロイヤルオペラハウス監督のパパーノさんを、「100万人に一人の声」と唸らせたことは有名。

そのリセ・ダビデセンが初めてメトロポリタンオペラでVerdiを歌うという点でも、話題に。(NYタイムスにもバーンと取り上げられてました。)

私は、ラッキーなことに、リセ・ダビデセンのVerdiは、去年英国ロイヤルオペラハウスで、『ドン・カルロス』のエリザベッタを聴きました。実は何も期待してなかったので、素晴らしさに嬉しい驚き。

彼女の声の美しさは勿論、テクニックに息をのんで「イヤー凄い!」とファンに。

って、その前にもメットで、リセさんデビューの『スペードの女王』、『ニュルンベルグのマイスタジンガ―』、『ばらの騎士』観てるのに、その時は「あ―なるほど、うまいなあ〜。」ぐらいしか思わなかった。あと凄い声量だわーって(笑)。

でもVerdi歌うと、ほんとにテクニックの誤魔化しが効かないから、彼女の凄さが感動的するほどわかっちゃって(笑)

嬉しい驚き!

テクニックのレベルが顕著に表れるVerdiのオペラ….いやあ、やっぱりVerdiって凄いわ。

今回の『運命の力』では、2幕目の2場のクライマックスで修道士として洞窟で暮らすため、修道士達と祈りの捧げるシーンは本当に美しかったし、声のコントロールが半端じゃない。すごい。で、彼女の声はとどまるところ知らず。

で、終幕の「Pace pace」、いやあ、声が伸びる伸びる、広がってでもコントロールされてるけど、最後の一音まで瑞々しい。

突き抜けるときは、すごいけど、空間に美しく浸透しつつあの大きなハウスをFillできるって、いや凄い。でも勿論ピアニッシモもコントロールされてて。

ただ、低い音でパッセージが早いと、あれ??って思っちゃいました。呼吸がついて行ってないというか、歌いきれてない?

他が完璧だから余計思うのか(笑)

みんな高音に注目するけど、Verdiオペラのソプラノ/テノールの低音って、ポイントなんですよー。ほんと、これ、大切、、、というか、聴いてる方は気になる。私は、高音よりもソプラノが低音にうまく移行できるところが好き。

来シーズンは、なんとトスカにも挑戦するリセさんですが、トスカのほうが歌いやすいかも?

『運命の力』、シリアスとコメディ

『運命の力』は比較的長いオペラ。

で、過酷な宿命を持ったアルバロと、その彼を愛し、またもや過酷な運命を選んでしまうレオノーラと、復讐に燃える、レオノーラの兄のカルロの3人の超シリアスでパワフルな物語。

でもそのシリアスなシーンと対比して、作品にメリハリをつけるために、コメディ要素のある小さな役と若いジプシー娘のプレツィオジッラがメインなシーンがあるんだけど、そのシーンが活かせられてる演出を、正直見た事ないかも。

これらのシーンをVerdiが理想とする結果をもたらす演出...って殆ど出会わないから、期待しないほうが良いのかな。

息子でさえも、「このシーンはいらないねえ。。。」とぽつんと言ってた(笑)

ティーンの感想

私の息子は、小学校の頃、先生に嫌がられる、空気を読めない=好きな事しかしない子供でした。

別に大騒ぎするわけでないけど、言われた事を事しない(笑)

態度は悪くないけど、テストの時間」も落書きで終わっちゃう(-_-;)

プリスクールの時は、全員サークルタイムで座ってるのに、彼だけ夢遊病の女もさながら、ふらふら(笑)

なので、上の娘のように、オペラを一緒に観に行くのは、無理だろうな―と思ってたけど、実際連れて行くと、あら不思議。

しっかり観てる。途中寝たオペラは2回。

それでも、彼の感想は面白い。

ティーンになった今でも、オペラが特に好きというわけでないけれど、誘えばついてくる。

で、観ると、しっかり観る。それで、オピニオンがめちゃ強い(笑)。

去年の夏に私に付き合わされたオペラ三昧の旅も、それなりに楽しかったようで、今回の『運命の力』観劇後、お互いに意見を交換しました。

息子が指摘したのは、レオノーラと彼女の父の関係。

今回の演出家は、カラトラーヴァ侯爵(レオノーラの父)とグァルディアーノ神父役に1人二役、同じシンガーで配役しました。

これは、レオノーラは、社会的にも彼女自身にも絶対的な権力を持つ父親が死んで(アルバロの銃が爆発し父に致命傷を負わせた)、新たなの権力者を無意識に求めた先が、グァルディアーノ神父である、と解釈しているから、、、だそう。彼女と神父の関係は、正直そんなに秩序関係の上下は感じなかったけど、彼女が神父=絶対権力=父親と見てるのは、息子もピンときたらしい。でも、その絶対権力は、ただ父親だからじゃなくて、何かの強迫観念的なものもあるんじゃないか?レオノーラの生い立ちとカラトラーヴァ侯爵の関係は、少し異様なものかも、、、、と感じたみたい。

これは、まんざら外れているわけでもないらしい(どこかで、やっぱり批評家がそれを指摘しているのを読んだ。)。

ネタばれですが、フィナーレのレオノーラが瀕死の状態で、アルバロと神父に看取られて、死んでいくシーン。レオノーラには、神父はお父さんの亡霊?に見えてるんですよね。(演出が)

演出家の意図を探りながら観るオペラって、疲れる時もあるけど、ここから会話が生まれて、色々感想を述べあえるのこそ、オペラの醍醐味かも。

まあ、感想を言い合えるのは、オペラだけじゃないけど。

でも、全てを説明されてないもの(本もそうだけど)想像力も必要だし、息子には、「このシーンからこんなこが見えたのね。」と、とても興味深く、私も発見がありました。

お金がかかりそうだけど、メトロポリタンオペラは、ピンからキリまでお席料金の幅があるので、これも可能なのかなー。

でも、各国、各州のオペラハウスで、学生券や子供用の割引があるので、是非チェックしてみてくださいね。

ダブルキャスト

私の主宰するIntroduction to the opera クラスでは、予習クラスを開催して、グループで観た場合も、個人で観た場合も、観劇後日ZOOMで感想会を開いています。

感想会では、話易いように、ポイントを幾つかあげて、皆さんでそれぞれ思ったことをシェアします。

今回、レオノーラ役はダブルキャストで、後半のキャストを観に行かれた方の感想が、前半を観た人々と全く異なるのがちょっとびっくりでした。

リセ・ダビデセンがレオノーラを歌った前半キャストは、カルロ役のバリトンが物足りなくて、あーやっぱりVerdiバリトンが足りないんだわー、悲嘆しつつも、アルバロ役のブライアン・ジェイドの美声と朗々と響く声は安定だし、でももう少し憂いや色があっても、、、とケチを心の中でつけながらも、スリリングな夜でした。

みんな、リセに感化されてHigher Artsを目指す、、、って感じで。

でも後半のソプラノは、他キャストを高めるって相乗効果はできなかったらしく、なんだか全体も、クターっとした感じだったそう。

やっぱりキャストって大事だわー、と再確認した感想会でした。

皆さんも、オペラは演目を選んだあとには、キャストに注目してくださいね。

特にヨーロッパは、日替わりでダブルキャストだし。

来シーズンのメットの作品については、6月に予告会をしますので、そちらでまたお話します!

オペラ情報などご希望の方は、NYやアメリカ他都市でのオペラ鑑賞を楽しめる情報をご希望の方は、是非メーリングリストにご登録ください!

エラー: コンタクトフォームが見つかりません。

コメントを残す