メットでの『トスカ』観劇レビュー

恒例の1月メット詣。 今月は、3作品を観劇。

来月(2月)はメットがお休みなので、少しづつ感想を書いていきますね。

まずは、1月極寒の中、今シーズン一番楽しみにしていた、ソンドラ・ラドヴァノフスキー主役の『トスカ』。 オペラクラスの皆さんと観てきました。

殆ど満席の会場は熱気と期待ムンムン。4日間のみの公演で、私が行ったのは2日目。

既に1日目の評判が良かったので、みんな期待いっぱい。

結論から言うと、

最高でした!!

期待よりも、本当に良かったし、トスカは数だけは、やったら見てるので(人気作品でいつもどこかでやってる)、冷静に観れたと思います。

ソンドラのトスカは、今回で三回目。勿論、前回も良かったけど、今回最高。

勿論チャンピオンは、ソンドラだけど、全てが完璧でした。

ソンドラについては、何度も書いているけど、未だの方はこちら

スカルピアのテーマから始まる短い導入で幕があがると、クラスで用意している(最近殆ど定席になっている)前から8.9列目のお席からすべての美しいデティールの良く見えること!

デビッド・マクギバー演出のこのプロダクションは、セット・コスチュームデザイナーのジョン・マックファーレンが、実際にローマに赴き、それぞれの建物(1幕:聖アンドレア・デラ・ヴァレ教会、2幕:ファルネーゼ宮、3幕サンタアンジェロ城)を尋ねデッサンし、そこから舞台ように再現したもの。角度が斜めの見える舞台は、不安定なこの時世を表しているのでしょう。

でも細かいデティールにこだわった様子がよくわかる素晴らしいセット。

わくわくして始まりました。

が、、、、、、、

メットあるある:ブラボ―おじさんたち。

最近、人気シンガーが出ると、気になることが多々。それはブラボ―おじさん。

推しがステージに出ると、どんな話の途中でもブラボーでちゃう。

1幕目、5分後ぐらいにカヴァラドッシのブライアン・ジェイドが登場すると、ファンがいるんでしょうね、多少の拍手。

そして彼のアリアのあと、先に出て隠れていたアンジェロッティとの短い会話のあと、舞台裾から「マリオ~マリオ~、どこにいるの?」の声が聴こえ、トスカのテーマと共に、トスカ役のソンドラが登場すると拍手にブラバーの嵐。でも、トスカ登場の時は、音楽だけで、すぐには歌わない、からまだ良し。

がしかし、、、、、1幕目後半、劇的なスカルピアのテーマと共に、スカルピア役のブリン・ターフェルが現れたら、10年ぶりのスターバリトンのメット帰還にブラボ―おじさん軍大興奮! 

音楽が聴こえないほど拍手とブラボ―の連呼、、、、、なんと、彼の最初の強力な一声「Un tal baccano in chiesa! 教会でこの騒ぎ!Bel rispetto! なんてざまだ!」が、拍手と歓声でかき消されちゃって聴こえない、、、、この一声でみんなビビるってのが、ポイントなのに。さいてー。

(今日のラジオでの生放送を聴いたら、拍手とブラボ―おじさんの声援に負けて、いったんオケが止まってた。。。。ふつうは止まらないんですよー。)

最近、メットで推しシンガーがでると、こんな感じで、拍手とブラボーの声かけが多い。

歌舞伎じゃないんだから、やめてほしい(笑)

歌舞伎は、そういう声が入るのが想定されてるけど、オペラ作曲家はそれ用に、作曲してないし(;’∀’)

気持ちはわかるんだけどねー。ブラボ―おじさん(´;ω;`)

カヴァラドッシを歌った、ブライアン・ジャッジは、マッチョ体格で舞台映えするなかなかのハンサム。声も安定して、高音もよく出る。現在Verdiやプッチーニでは引っ張りだこのテノール。

NY生まれの45歳で、今キャリアたけなわ!って感じでしょうか?

確かに、手堅い選択ではあるけど、スター性と言ったら、ロベルト・アラーニャには劣るし、テクニックもカウフマンほでではない。でもやたら世界中のトップハウスで主役を歌っている。

ってことは、確かに上手いんだろうなー。去年の『運命の力』だって、なかなか良かった。

力強い声で、とってもクリアで。安心して聴けます。

が、、、、、1幕目、指揮者のヤニック・ネセガン率いるオーケストラとのテンポとずれ始めた。これは誰が悪いのか??

時々ヤニックは走る感じがあったかも?

ソンドラが歌うときも“ヤニック突っ走りたいです”兆候はあったけど、彼女は熟せるのよ。

テンポを合わせるというか、テキストと音符がちゃんとマッチするように、コントロールできて、レガートでベルカントで歌える。

ここで、ソンドラとブライアンのキャリアの違い?がどーんと出た感じ。

そして、超大物のブリン・ターフェルの登場、、、、

ブリンとブライアンが同じステージに立つのは、2幕目のみだけど、圧倒的なステージ上での存在感は、やっぱりブリン。すべての彼の動きが“スカルピア”そのもので、もうスリル満点でした。

ブライアンというと、、、、悪くはないけど、ふつう(笑)

前シーズンの『運命の力』では、相手役のレオノーラが、大型新人のリセ・ダビデセンで、リセにまったく引けを取らず、素晴らしかったんだけど、いやあ、やぱっりソンドラと歌ってると、やっぱり彼はまだまだだなーと思っちゃいました。

味がないというか(これ言っちゃおしまい??)そしてブリンとソンドラの3人でいると、影が薄い、、、、、

2幕目で、3人初めて同時にステージにいて、もともとカヴァラドッシは、大切な駒ではないけれど、やっぱり「あ、いたのね。」感すごい(笑)体大きいのに。

とどめは、3幕目の「星は光りぬ」のアリア。

いやあ、2幕目のインパクトが強すぎて、このアリアの出来が思い出せない(-_-;)。

私だけじゃなくて、一緒に行った生徒さんもみんな同じ、、、、

我々、オペラ観劇クラスで観に行くと、まず予習して、劇後には感想会があるんですね。

そこで皆それぞれ幕ごと、キャラクターごとに、思う事をシェアするんだけど、

「星は光ぬ」どうでした?

と言う質問に….

みんな、???記憶に無い😅って。

私も同じく🙂‍↕️

悪くはなかったんだと思うけど、、、たぶん何も感じなかったんだと思うんです。

心が動かなかった、印象のない「星は光りぬ」。

でも、彼もすっごく頑張ってたし、幕後の特別インタビューでも、こんなオペラ界のジャイアントたちと共演して、緊張しまくって感想を語ってました。

きっと急に人気が出て、超多忙だけど、ソンドラとか素晴らしいシンガーと共演して、もっと期待できるドラマを表現できるシンガーになるんじゃないかと思う、、、、思いたいです(笑)。

因みに、彼は春のアイーダで、ラダメスを歌います。現在歌っているベチャワより、適格だと思うけど、センシビリティは、ベチャワのほうが上でしょうね。

でも、今回は、お互いを高め合ってる感じで、切磋琢磨で、みんな素晴らしい舞台をつくっていたと思います。

スカルピア役のブリンの期待の最初の一声が、観客の興奮にかき消されちゃって、本当に残念だけど、、、ブリンは声は怖くない(笑)。

ブリン・ターフェルは本当に素晴らしいバリトンで、90年代初めかな?に初めて彼のフィガロ(フィガロの結婚)をロンドンで聴いたとき、感動したのを覚えています。

色々聞いたけど、(イタリア、ドイツオペラ)やっぱり彼はフィガロ(笑)

でも、コメディセンスは勿論だけど、コメディが上手いというより、舞台でストーリーを表すのが、素晴らしいアーティストなんだと思います。

ちょっとしたアクションが、スリル。

2幕目で、マレンゴの戦いで勝利したのは、実はナポレオン側だと知らせを受けたとき、ドアに走り溶離ながら、そのメモを指でクシャっとして突き放すように投げ捨てる。。。。。と思いきや、音楽が高らかになり、カヴァラドッシが、「勝った!勝った!Vittoria! Vittoria!」と叫ぶ。

このシーン、いつもは、カヴァラドッシの「Vittoria!」のインパクトの方が強いけど、そこに行きつくまでのドラマのスピードの速さの中で、スリルいっぱいに緊張とドラマを高められたのは、あのスカルピアのちょっとした演技だったと思います。

あの演技があったからこそ、スカルピアの「負け犬め!吠えるがいい!!」と言って彼を死刑台に送る言葉が生きたと思うんです。

いやあ、すごかった。。。。。

幕後のインタビューで、ソンドラが、ブリンに「私いつも不思議に思ってたんだけど、、、スカルピアの役って、バリトン?バスバリトン?バス?」って訊いてたんです。笑っちゃった。

確かに、彼の声って、バスバリトンっていう人もいるけど、そうなの?って感じだし。

答えは「決まってない。」そうです(笑)

スカルピアの役って、名性格バリトンのTito Gobbiが有名だけど、やっぱりドラマを生める人なんでしょうね。

ブリンも今日のラジオインタビューで、「この役を歌うとき、音楽より、テキストを考える。テキストをうまく伝えられかが、一番大切なんだ。」と言ってました。

このキャストのトスカは、HD配信もされず、今日が千秋楽だけど、こんなに評判がよいんだから何らかの形で、残ることを期待しています。

今日の公演はメットラジオ(オンライン)で配信されます。でも。やっぱり見れなきゃねえ。。。。

ブリン・ターフェルのスカルピアは、これで卒業だそうです。

メットにも次にいつくるのか?

でもヨーロッパでは、まだまだ歌うようなので、是非生ブリンを観てみてください!

いつもソンドラが言っている、舞台はみんなでつくるものってのが、本当に今回のトスカでした。

彼女の言う皆というのは、キャストやオーケストラのパフォーミングチーム、そして舞台の裏方スタッフだけでなく、受け取る側の観客も指しているんです。

パフォーマーは生身の人間。リアルタイムにその場で彼らのパフォーマンスを真剣に観て、そのドラマに引き付けられのめり込んでいるその観客を観て、シンガーはもっと盛り上がるんです。

そうすると伝染病みたいに(笑)、全てのキャストにつながる。

総立ちのロック・ポップコンサートみたいに、立ってSing alongじゃなくても、ステージにいる彼らの一声、一音、そしてアクションに反応する観客に感化されて、こんなエキサイティングな空間が生まれ、舞台と客席が一体になれるんだと、本当に素晴らしい経験ができました。

そういえば、去年の1月のハビエ・カマレナ主演だった『愛の妙薬』もそうだったわー。

やっぱり、生の音楽ってすごい。

そして、その生の音楽、、、オペラは本当にナマものです。

我々が受ける声は、マイクを通さず、全てシンガーの体から、彼らの体からコントロールされてでてくるもの。口パクもないし、ただ絞り出してるのもない。

ぜひ、多くの人々に体験してほしい、っです。

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