遂に最後の日がやってきました。Met Operaの無料配信。
去年のシャットダウンから始まった、コロナ禍だからでこそのメットオペラの毎日無料配信。
遂に最後です!!
ラストを飾るのは、イタリアオペラの王、ジュゼッペ・ヴェルディの『Un Ballo In Maschera 仮面舞踏会』.
これは、2012年末に上演されたパフォーマンスの録音。
キャストは、本当に最高で、それぞれのメインキャラクターのある意味での旬を捉えているかも。
早速観たい方は、現地時間19時半に、メットオペラのHPに飛んでください! 23時間視聴可能。
マメ知識:
このオペラは、実際に起こった スウェーデン 王グスタフ3世殺害をベースにした題材。
でも、初演当初は厳しい検閲側が、王様を殺害なんて、言語道断!
で、結局交渉の上、ドラマ性を変えないで、舞台をイギリス領アメリカ、王様はボストン総督のリッカルドに変更。
遠い未知のアメリカなら、どーでもいいよーって感じ。(笑)
音楽には文句を言わせなかった
現在は殆どの演出はVerdiが望んだオリジナルの スウェーデン に戻ってます。
超簡単荒筋
荒筋は、ググればどこでも読めるのでここでは、超簡単に。
場所・時代:18世紀末、 スウェーデン でもこの演出は20世紀
スウェーデン王グスタボは、実は最も信用してる従者のアンカーストレーム伯爵(レナート)の妻のアメーリアを密かに愛している。当のレナートが、王への反逆を企んでいる輩がいると警告。そこへ判事が占い師のウルリカの追放を要求しにやってくるが、元々めでたいタイプの王は、ウルリカに興味を持ち、「みんなで変装して身分を隠し、占い師がイカサマか見に行こう!」と小姓のオスカルと盛り上がる。王宮内の反逆者たちは、チャンスと喜び、真面目なレナートは心配する。
占いの館:アメーリアも実はグスタボを密かに愛しており、ウルリカに彼を忘れさせてほしいと懇願。ウルリカは、死刑台の薬草を深夜摘むことをアドバイス。変装してやって来たグスタボは、一部始終を聞き、喜ぶ(めでたい奴)。自分も死刑台に行くことにする。アメリアが去ったあと、 グスタボ は、ウルリカに占いを望むが、彼に”死の相”を見て「あなたと握手した友人に殺される」と告げる。信じない グスタボ は、変装してやって来た取り巻きの皆に握手を求めるが、みんな恐れて避ける。そこへレナートがやってきて握手をしたので、「最も信用してるレナートのはずがない!」と笑い飛ばして終わる(まためでたい(;^_^A)。
深夜の死刑台、アメーリアが薬草を積んでいると、 グスタボ が現れお互いに愛を打ち明けてしまうが、王の危険を予期したレナートが現れる。直ぐに逃げるように助言されるリッカルドは、ベールで顔を隠す夫人(アメーリア)の素性を訪ねないことをレナートに誓わせ、別路で逃げる。反逆者に問い詰められたレナートをかばう為に、アメーリア思わずベールをとってしまい、王の逢引の相手は自分の妻と知り、レナートは愕然とする。
レナートとアメーリアの館:妻の不貞を疑い、逆上し復讐を誓うレナートは、反逆者達に仲間入りをすることを伝え、王の殺害は私がと望む。そこへ、仮面舞踏会の招待状が到着し、彼らは、舞踏会こそ王の死の時と決める。
殺害計画を悟ったアメーリアは、匿名で、 グスタボ に警告に手紙を出す。が、反逆者から逃げることを拒む王は、アメリアを諦める決意をし、彼女への別れを言う為に、舞踏会に行く。アメーリアは舞踏会の最中に再度 グスタボ に警告しようとする。グスタボが「貴女を忘れる」と伝えるその時、レナートが、王を刺す。死の間際に グスタボ は、レナート、そして反逆者らの特赦を言い残し、民衆への別れの言葉を最後に息を引き取る。
キャスト/スタッフ
グスタボ、スウェーデン王:マルセロ・アルべラス(テノール)
レナート、アンカーストレーム伯爵 :ディミトリ・ホロフトスキー(バリトン)
アメーリア、レナートの妻:ソンドラ・ラドヴァノフスキー (ソプラノ)
ウルリカ:ステファニー・ブライス(メゾソプラノ)
小姓オスカル:キャサリーン・キム (ズボン役・ソプラノ)
指揮者:ファビオ・ルイジ
演出:デビッド・アルデン
キャストについてマメ知識
このキャストの中の主要三人は、2009年に大評判だった『Il Trovatore』のキャストなんですよね。
あれから3年、それぞれのシンガーはより大スターになり、世界中のハウスから引っ張りだこになっている2012年の上演。
3人でトロヴァトーレや仮面舞踏会を世界中のハウスで歌っていました。
マルセロ・アルヴァレス
ただ、元々リリックテノールだったマルセロは、ヴェルディの役は少し無理があったように思えます。
彼の2009年の初のトロヴァトーレの録音と11年を比べると、声は相変わらず美しいのですが、声をプッシュし過ぎているのか、息が回ってない感じだし、フレージングもなんか怪しくなってきています。
でも、ソンドラとの愛の重唱とか、特に終幕にアメーリアに「貴女を諦める。レナートと一緒に国を去りなさい。」というシーンは、彼の本領発揮。
元々超高音があまり得意でない彼は、リリックテノールとしては役選びが難しいんですよね。
勿論リリックテノールの典型で、低音もちょっと弱い。
彼は、2017年には、この『仮面舞踏会』のグスタボ役を引退しました。
実はグスタボ役は、King of High Cこと、亡きルチアーノ・パヴァロッティの得意役でもあったんです。
パヴァロッティは、リリックテノールの中でも、声のボリュームもあるし、独特な声をベルカントで鍛えられた完璧なテクニックで、彼に合わない声のパートさえも聴かせてくれる魅力がありました。
マルセロは素晴らしいシンガーだけど、やっぱりパヴァロッティは別格(;^_^A。
現在はレパートリーをプッチーニをはじめ、ヴェリズモオペラ中心にしているようですが、残念ながら本当に声に負担がかかってしまっているように思えます。
2012年の本作品も、光るところと、苦しそうなところがあって、微妙だけど、キャラ的に部分的におめでたいリッカルドの役は、あってるいるようにも思えます。
マルセロの本来の美しい声を聴きたい方はYouTubeで、ランメルモールのルチアをググってください。
ソンドラ・ラドヴァノフスキー
もういつも褒めてて、いろんなところに書いてるので、ここでまた書く必要もないかもですが、、、、
*ソンドラについての過去記事はこちら
ソンドラは、本当に努力の賜物のようなシンガーだと思います。
彼女は元からスピントに近いソプラノで、本人は、やっぱり自分は高音の人だ、とインタビューで答えてましたが、低音もしっかりしていて、完璧なトリル、ベルカントの息遣いも素晴らしく、そしてちょっと独特な声の持ち主です。
2002年に幼少からの喉のポリープを除く手術をしたら、高音が出るようになったらしく、その後は、Verdiの初期作品で大活躍し、40代半ばを過ぎてからベルカントをの大役(ドニゼッティ、ベッリーニ)を歌い始めました。
手術前からよく歌っているIl Trovatoreのレオノーラ役は彼女の18番。その次に良く歌うVerdiは、今回配信のオペラ『仮面舞踏会』のアメーリア役。
今年も既にアメーリアは、スカラ座、ミュンヘンでも予定されています。
惨めな役が得意なのよ、とインタビューで答えていた通り、彼女が歌うと、もう心が鷲掴みされて、毎回😢ものです。今回も、動作や表情の演技というより、歌での演技が素晴らしい。
オペラは、お芝居でもあるけれど、本来は詩(セリフ)を歌っうことが演技になっているので、むやみな動作でなく、歌唱の表現が一番大切。ソンドラは、本当にそれが素晴らしい。だから、泣けるんだろうなー。
彼女は、録音も素晴らしいのですが、一度生で、聴いて欲しいシンガーの一人。
でも、既に50歳前半で、最近いつ引退?ってすごく考える、とライブで話してました。まあ、数年内に引退はないと思うけど、やっぱり一刻も早く聴いてください。
できれば、Il Trovatoreが絶対おすすめ。
ディミトリー・ホロフトスキー
ディーマの事も散々書いたので、今更ですね(笑) *ディーマの亡くなった際に描いた記事はこちら
本作品のお堅いレナート役を、良い人だけどクールなレナートが、妻の不貞を疑い、妻を愛す余り、怒りで自殺させようとするシーン。。。。もう濃厚過ぎるー。超セクシーです、ディーマ。
多分このパフォーマンスの中で、最高のシーンだと思います、ソンドラとディーマ…
彼の声は、ロシア的で、クールな深さがあって、イタリアオペラのバリトンーVerdiのロブストであり輝くブリリアンテではないので、作品によって違和感があるのですが、レナート役は好きです。
ステファニー・ブライス
私は一言いいたい!メットオペラ!ステファニー・ブライスをもっと出せー!!!
ステファニーさんは、私実はデビュー当時から好きで、特にバロックとか、余りの声の素晴らしさに度肝を抜いたんですよね。
でも、なんかイマイチ大きな役をもらえてない感じ。
彼女は、昔のオペラ歌手のように、体が大きいから、現在のビジュアル重視のオペラ界のキャスティングには、コメディックな役や、お局的な役しか回ってこないのかも😢
因みに、来シーズンのメットオペラでは、ステファニーさんは、マスネのシンデレラの継母役を歌います。
特に好きなオペラじゃなかったけど、ステファニーさんは最高だったので、また楽しみです。
演出について
これ、生でも実際観たんですが、何が印象に残ったって、ソンドラのスリップのようなドレスと、レナート夫妻の居間にあるマルセロのポートレート(笑)
いや、マルセロ、王様役だから、わかるんだけど、大きすぎない???(笑)
この演出、スウェーデンに場所を戻してるけど、反逆者たちを意識して、フィルムノワールっぽく仕立てたかったらしいです。確かに、衣装はエレガントだし、3人だけのシーンとかも、シンプルな分、緊張感もでるかも。
でも、小姓のオスカルはちょび髭つけてて、よくわからない。可愛くない。あんなにかわいいアリアが2つもあるのに(# ゚Д゚)
お笑い狙ってる???のシーンは、1幕目のフィナーレで、「変装してウルリカのところに行こう!」って、王を筆頭に、みんなでラインダンスを踊るシーン(;^_^A
勿論ディーマ扮するレナートは堅物なので踊りません(笑)
この時のマルセロ、笑う~( ̄∇ ̄;)
気が付いた面白い点は、2幕目のウルリカのシーン。ウルリカも彼女を取り巻く女性も、みんなハンドバックを抱えて、怪しい感じ。
これって!2007年のマクベスの演出とそっくり!
2007年のMetのマクベス演出(by Adrian Noble)の魔女たちは、みんなBag Ladyで、普通のお洋服にハンドバッグをもって、でも薄汚い、頭がオカシイかな?と思わせるおばさん達のイメージだったのよね。
それと似てるー。パクった???
まあ、どちらにしても、よくわからない部分が多すぎて、好きな演出ではないです。
特にフィナーレは、なんじゃ??って感じ。まあご覧になってください。(笑)
聴き所・見所
演出に文句は言っても、素晴らしい音楽なので、そちらを楽しんでくださいね。
聴きやすい音楽だし、未だ中期から後期への進化しているVerdiの音楽が最高のかたちで楽しめます。
序曲は、リッカルドがアメーリアを思う愛のテーマに、反逆者たちのテーマが低音でかぶさります。
ヴェルディの三大中期傑作の一つ、『リゴレット』の彷彿させる本作品。グスタボ王は、マントヴァ公の良い人版かな。
リゴレットの呪いのテーマが、ここでは反逆者のテーマと同じ使い方っぽい。
プロット的にはリゴレット程悲劇/ひどい話でないので、楽しめるのかも(笑)
さすがヴェルディと思えるのは、どこのシーンでもアンサンブルや、コンチェルタートのすばらしさ。
このオペラには、素晴らしさに、軽やかな楽しさを入れた嵐の前の騒ぎ的なシーンがあって、でもそれも芸が細かいといいうか、聴きやすいというか。
本公演で、私の他お気に入りのシーンは、2幕目のウルリカのアリア:ステファニーさんが口を開けた途端、声の素晴らしさに感動でした。
そして、アメーリアのアリア、アメーリアとリッカルドの重唱、そして、勿論、レナートとアメーリアの重唱。
なぜこの作品が、無料配信最終作になったか疑問ですが、やっぱり多くの人に見てもらえる、楽しんでもらえるオペラは、Verdiなのかなー、と思いました。
因みに指揮は、当時のメットの首席指揮者でありレヴァインの穴埋めして仮音楽監督のルイジさん。
現在はN響の音楽監督も務めてます。
彼はオペラの人なんだなーとつくづく思う演奏。幕間にソンドラも言ってたけど、シンガーを生かすオケの呼吸を知ってる人。素晴らしいです。
今日のなんちゃってオペラde人生学び:
堅物の夫よりも、楽しいラ・ラ・ランド的なのグスタボを好きになるアメーリアって、よくあるタイプの女性なのかしらん。若くして結婚すると、ありがちな行動かも?
楽しい男はモテルってことですね(笑)
今日の教え:
真面目な男性を裏切ってしまうと、より怖い目に合う。
みなさん、気を付けましょう。
Viva Verdi!!
お楽しみください。
鑑賞リンクはこちら
💛シンガーの事、旬の声について、演出について、ただググるだけではわからないことなど、ご興味のある方は、是非今後のオンラインクラスにご参加くださいね。
詳細は、メーリングリストにてまたお伝えします!