メットオペラ2014年版『マクベス』解説&勝手感想

今回は、個人的に大好きな作曲家の大好きなオペラ『マクベス』

作曲家は、イタリアオペラの巨匠ジュゼッペ・ヴェルディです。

ヴェルディは、低音の魅力を知っているのか、バリトンが主役の作品が多いんです。マクベスもそのひとつ。

低音ファンの方、必見です。

『マクベス』は、イギリスの偉大な戯曲家、シェイクスピアの作品。台本に手はあまり加えず、オペラ化したんだよ。 
シェイクスピアは、私の最も尊敬する戯曲家の一人。シェイクスピアの作品をオペラにするのが、私の夢なんだった。ゴールは、リオ王のオペラかだったけど、嗚呼、実現できなかった😿

6/5(土)メットオペラ無料配信:
いつものように、メトロポリタンオペラのHPで、NY時間19時半から23時間、何度でも鑑賞できます。
鑑賞はリンクは、こちら

マメ知識

Portrait of Giuseppe Verdi by Giovanni Boldini, 1886
  • 作曲家のジュゼッペ・ヴェルディは、オペラ史で最も重要な存在。ヴェルディを語らず、オペラは語れません!
  • オペラ超有名作品『椿姫』、『アイーダ』はヴェルディの作品。
  • 彼の作品は、27作品を超え、初期、中期、後期と音楽のスタイルが分けられる。(人間やっぱり育ちますからね)
  • マクベスは前期に属するけれど、晩年に作品を見直し、改正版を作成。現在は、改正版とオリジナルを混ぜて上演する場合もあるが、メットオペラは、改正版を上演する。
  • 上記で説明したように、マクベスは前期作品なんだけど、晩年の巧みなドラマ構成が改正版で加えられた、素晴らしい作品。前期に観られるベルカント的な歌唱と、後期のドラマトゥルギーが巧妙で、一粒で二度美味しい😋
  • マクベスはシェークスピアの代表作のひとつ。
  • ヴェルディは、マクベス夫人に美しい声と容姿を望まず、「マクベス夫人の声は、とげとげしく、押さえつけられたような声でなきゃいけないんだよ。」と指示していた。
  • オペラのタイトルは、Macbethだが、オペラ上では、Macbetto(マクベット)と書かれ歌われる。

荒筋

スコットランド、(本来は、11世紀だけど、メット版はモダンにアップデートされてます)

戦で勝利を収めたマクベスバンコーの前に、魔女たちが現れ、マクベスはコーダーの領主となり王になり、バンコーには、彼は将来の王の祖先となる、と予言する。

不審に思っているところに、ダンカン王(歌わない役)の使いの者が現れ、マクベスはコーダーの領主昇格したと告げる。

最初の予言が、実現したことから、マクベスは驚き、同時に不安になる。

マクベス家の城。夫からの手紙を読んで、魔女の予言を知ったマクベス夫人。手紙には、ダンカン王が今夜、城に宿泊するのでもてなしの用意をするように、とも記してあった。

野心いっぱいのマクベス夫人は、この機会を逃さない!と帰宅したマクベスを焚きつけて、ダンカン王殺害を説得するが、マクベスはビビりっぱなし。

何も知らないダンカン王と、その従者らが到着し、盛大な祝いの後、それぞれ床に就く。

マクベスがびくびくしながら現れ、妻に言われた通り、ダンカン王を刺殺するが、恐怖のあまり、凶器のナイフを持ち帰ってしまう。(看守に罪をきせる為に置いて来る作戦だった)

待ち構えていたマクベス夫人は、血にまみれた自分の手を見て、おののく小心者の夫に呆れて一括し、ナイフを殺害現場に戻すように促すが、マクベスは腰抜けで使えない(-_-;)

仕方なく、マクベス夫人が、血まみれのナイフをダンカン王の死体に戻し、夫人の手も血まみれとなる。「洗えば血なんて落ちるのよ。」とマクベスを説得し、「もうやっちゃった事なんだから、どうしようもないでしょ‼︎」と叱咤するが、動揺は隠しきれない。

翌朝、マクベスの城に遅れて着いたマクダフが、ダンカン王を起こしに行き、王の無残な姿を見つけ、城中に知らせる。

お互いを疑いながら、王の死を悲しむ人々の中で、マクベスは、自我を失いつつあり、夫人は夫にしっかりするように告げる。

計画通りスコットランドの王となったマクベス。でも、殺害を思い出してはビクビク、オロオロし、その上、魔女の予言、「バンコーが将来の王の祖先となる」を恐れ、心配する。夫の意気地の無さにイラつくマクベス夫人は、バンコーと息子の殺害を提案。そんな!!できない!😩😭というマクベスにカツを入れ、マクベスは渋々決心し、刺殺を送ることにする。

森の中。危険を感じたバンコーは、息子とマクベスの城を急いで去るが、途中刺殺に襲われる。息子を逃し、バンコーは犠牲となり敵の刃に倒れる。

マクベスの戴冠式の宴。夫人の音頭で、乾杯の歌が歌われ、それぞれの思いがありつつも、祝う客人。

既に情緒不安定になっているマクベスに、刺殺が来て、バンコーの死と、息子の殺害失敗の知らせる。マクベスはもう祝いどころではない。祝賀の途中に、バンコーの亡霊が現れるが、その姿はマクベスにしか見えない。

完全に自我を失ったマクベスに、客人たちは怪しむが、必死でマクベス夫人がとりなそうとする。

もう完全にビビりまくりのマクベスは、魔女に新たな予言を請い森に行く。

魔女たちは、秘薬を作るのに夢中になっているが、手を止め予言を始める。「マクダフには警戒するように。」「女の産道を通った者にはマクベスは倒せない」そして、「バーナムの森が動かない限りお前は負けはしない」らの予言に安堵するマクベス。

が、「バンコーの子孫は王となるのか?」の問いに答えない魔女たちに、怒り、精神がまた不安定になる。すると、光が差し、若い王たち(バンコー子孫)のシルエットが浮かび、最後に鏡を持ったバンコーの姿が浮かび、マクベスは恐れのあまり気絶する。

マクベスを探す夫人も到着。マクベスは夫人にすべてを説明し、マクドフの殺害を決意する。

スコットランドとイングランドの国境の近く。マクベスの手下に、城を攻められ、妻も子供たちも殺されたマクドフは、軍を挙げて亡きダンカン王の息子、マルコム王子に仕え、マクベスと戦う準備を進めている。マクドフは軍勢に、バーナムの森の木を刈り、その枝葉を用いて擬装し、マクベス軍に近づく戦略を伝える。

マクベス城。マクベス夫人の侍女が、夫人は、精神が既に不安定になり、夢遊病である城中をふらふら歩いていると医者に話している。そこに夫人が、睡眠歩行しながら現れ、「なんど洗っても血のシミが手から取れない。」とブツブツ言ってダンカン王殺害やバンコーの殺害についてを独り言で、怯えながらもつぶやき、侍女と医者は愕然とする。

マクベスの陣営。マクベスは、夫人が狂気で死んだ報告を受けるが、もう何も考えられない状態でいる。「マクダフ率いるマルコム軍が攻めて来た!」との報告を受けるが、ボーナムの森が動かない限り、我々は負けない、と説き伏せる。が、すぐその後、ボーナムの森が動いている、という知らせを受け、愕然とする。


マクベス軍とマルコム軍の戦い。交戦の中、マクベスとマクダフの一騎打ちになる。マクベスが、「女の産道から出てきた者には、俺は倒せない!」と叫び、マクダフが、「俺は母親の腹を破って出てきたんだ!」(帝王切開)と叫び、驚くマクベスを一打する。マクベスは愕然とし、逃げながらも息絶える。

マクベスの死を喜び、マクドフは、マルコムに王冠をささげて、人々は歓喜する。

おしまい。

聴き所

全て!と言いたいところだけど(笑)涙を呑んで、抜粋します。

マクベス夫人は、3つアリアがあって、プラス、乾杯の歌と、どれも微妙に要求される歌唱が違うんですよね。

ちなみに、マクベス夫人は、ソプラノの役です。

1幕目のアリア「さあ、急いでいらっしゃい。」(Vieni !T’afrfretta!…)は典型的なヴェルディ初期のドラマチックなコロラチューラで、高音が光る。それは、乾杯の歌も同じ。

2幕目のアリア、「光は萎えて」(La luce langue低い音が中心で、メゾのアリア?って思わせるほど音域が低い位置に集中している。

そして、4幕目の夢遊病の歌。Una macchia e qui tuttoraは、今までのマクベス夫人の緊迫さとは違った歌い方が要求されます。消えていくような声(でも消えちゃ困る)。

この曲は、1幕目のアリアと2幕目の乾杯の歌の様にコロラトゥーラなどの技術は要求されず、オーケストラが殆どなくて、声が裸の状態になるんです。で、また低い、、、で、狂ってるって状態を観客に説得させなきゃいけない。

段階の違う難易度です。

これらの曲、全て聴き所、、、、でも夢遊病の歌が一番注目かも。

夢遊病のシーン。手を洗っても血のシミがとれない、、、、
実はこの歌、去年オペラファンの間で、コロナの手の荒い方の替え歌で人気だったんです(笑)

主役のマクベスもアリアがあるんですが、このオペラ、やっぱりマクベス夫人が中心なんですよね。

私の個人的な一番好きで、気になるところが、1幕目で、マクベスがダンカンを殺して、血だらけになった手を見て、放心状態で、夫人に「しっかりしなさい!意気地なし!」とどやされるデュエット(笑)

ここは、重唱なんだけれど、王を殺す前に、「アーメンと言おうとして、口が凍り付いてしまった」と恐れるマクベスが、見えないもの(多分神聖なもの)に恐れをなしている音楽と、彼を慰めているようで、呆れてどつく感じの夫人の音楽との掛け合いで、そのキャラクターの心理が本当によくわかるシーンです。

ダンカン王殺害後ビビるマクベス(ジェリコ・ルチッチ)とマクベス夫人(アンナ・ネトレプコ)

他は、なんといってもコンチェルタート。(メインのキャラクターが、それぞれ思いを歌い、群衆ーコーラスもそれに参加する)

ヴェルディのオペラは、やっぱりコンチェルタートが醍醐味だと思います。

1幕目の最後のコンチェルタートは、ダンカン王が殺されたとわかり、「誰がやったんだ!」「冷静に!」とかそれぞれの思いを主要キャラクターが歌い、城にいる従者や客人たち(コーラス)が王の死を悲しみ、殺人という状況の恐れを歌いジョインします。

2幕目のコンチェルタートは、マクベスの戴冠の祝賀会で、バンコーの亡霊を見て奇怪な行動・言動のマクベスと、彼を冷静にさせようとし、とりなす夫人、彼を怪しむマクダフとに、従者たち、客人(コーラス)がジョインします。

1幕目のコンチェルタート。ダンカン王(中心)の死体を囲んで、それぞれの思いを歌う。左に、マクドフと、バンコー。右側に、マクベス夫妻

面白い見所: 魔女

魔女って言えば、黒いドレスに帽子をかぶってほうきに乗ってそうですが、この演出では、言わゆる”バックレディ”。普通のお洋服を着てるけど、ちょっと薄汚い、そしてみんなハンドバックを持ってて、なんか目つきがギョロッとして怖い(笑)

よく浮浪者か、普通の人かわからないけど、なんかオカシイおばさんっていますよね。そんな感じ。

そういえば、児童小説のロアルド・ダールの「The Witches 魔女」も普通の恰好してる中年のおばさんですよね。(映画にもなった)

原作では、3人の魔女ですが、オペラでは女性コーラスが、魔女役。3つのパートに分かれてます。

“普通っぽいけどハイなおばさん達“の集まりって怖いです(笑)私も仲間にはいれそうだけど。

キャストと感想

マクベス:ジェリコ・ルチッチ(バリトン) 

素晴らしいVerdiバリトンが不足する中、人気なのが彼。と言っても、、地味なんですよね。そつなく歌うんだけど、衝撃的ではないタイプ。でも、野心たっぷりの奥さんに、どやされつつ悪行を働いて、ボロボロになるさまは、すごく表現できていたと思います。輝かないけど、Verdiバリトンらしく、レガートも素晴らしいし、とりあえず、良い感じ。

マクベス夫人:アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)

現在のトップディーバのアンナちゃん。ロシア出身でロシアのサラブレティでもあります。元々リリックソプラノで、レパートリーがベルカントが多かったのが、年齢、体の変化と共、低音が充実し、声もだいぶ重くなりました。(本人曰く、出産後に代わったそう。)

そして、新たなレパートリーに挑戦したのが、このマクベス夫人。

マクベス夫人は、聴き所でも書いたように、リリックな部分と、ドラマチックな部分があり、ベルカントに要求されるコロラトゥーラ(転がすように歌う)とパワフルな声が要求され、しかも音域も広い。本当に難しい役なんですよね。それだけ、聴いてる方は、期待がいっぱいでスリル満点なんですが。

アンナちゃんは、マクベス夫人の役は、自分の声にあってて、すごく好きだとインタビューで言ってました。そういえば、今月?にもドイツかウィーンで歌う予定です。

この録音の2014年は、アンナちゃんがメットでマクベス夫人を歌うのは、初めてでした。

一幕目のアリアの低音は、すこし投げやりっぽいけど、夢遊病のシーンは、圧巻。2019年の秋に聴いたときにも、素晴らしかったです。

彼女の凄いところは、マクベス夫人のように強い攻撃的な役がピッタリ、と思わせながらも、アイーダなど、可愛そうなヒロインも素晴らしく歌い演じられるから、感動と感心。毎回新鮮です。

是非一度、生で聴いていただきたいシンガーです。

バンコー:ルネ・パーペ(バス) 

今ほど大物になって無いころのパーペさん。2幕には殺されちゃうので、出番があまりない。勿体ない(笑)

カーキーのコート(左)がマクドフ役のカレラ。右がランボールックが、バンコー役のパーペ。今より太ってるかも。

マクドフ:ジョゼフ・カレラ (テノール)

このかたも、今大人気のリリックテノールですが、マクドフは1曲アリアがあります。(妻も子も殺されて嘆くところ)安定で、とっても良かったです。最近彼はリリックから少し重い役にシフトしていますが、マクドフの役は、よくあってると思いました。

メトロポリタンコーラス:最高(笑)

メットのコーラスは、以前も書いたかもだけれど、私は世界で最高のオペラコーラスだと思っています。

魔女も、従者としてのコンチェルタート、さすが!で、本当に素晴らしいの一言。

演出ですが、セットはシンプルだけど、効果が出ていてよいと思いました。が、うしろだてがないセットなので、(建物とか)、ステージ裏の音が筒抜けまではいかないけど、よく聞こえました(笑)録音の場合、その辺はちゃんと調整してるはずなので、配信鑑賞の際には、気にならないかな。

衣装は、うーん。1幕目のマクベスの革ジャンは、ちょっとね。

もっとうーん(-_-;)は、バンコーのカモフラージュルック。一歩間違うとキューバのChe Guevara?と思わせるいでたち。で、パーペさんが、そのルック、似合わないから、また、うーん(-_-;)

でもでも、音楽は、本当に素晴らしくて、Verdiの初期の少しあか抜けてないけど、民衆の音楽って感じと、ドラマと音楽の融合を目指して、作り上げた感とが相まって、素晴らしい作品だと思います。

なんといっても聴きやすい!

最後に。。。

いかがでしたか?

オペラを見られたら、または既にご覧になった方、ぜひご感想を聞かせてくださいね。

以前、生徒さんに、なぜあんなに強かったマクベス夫人は、急に気が狂っちゃうの?と尋ねられました。

3幕目まで、すごーく強くて、マクベスが「マクドフも始末しなきゃ。」といったとき、「ああ、その姿こそ、私の恐れをしらない男だわ!」と褒め喜んでたのに。

シェイクスピアの作品は、人間の心理の複雑さ、強さと弱さをを表しています。

マクベス夫人も、夫の情けなさに「自分がなにもかもしなきゃいけないの?」と強くなっていたけれど、神経はピンピンだったのでしょう。で、ぽきっと折れた。。。。

みなさん、どう思いますか?

オペラでは原作と少し異なる部分もありますが、語られない(歌われない)個所を想像するのも楽しいと思います。

好きなオペラは、何ですか?

今週は殆ど毎日連続で、オペラ解説をかきましたが、このブログで、オペラにもっと興味を持ったり、もっと好きになっていただけたら、嬉しいです。

皆さんは、好きなオペラはありますか?

近々、「好きなオペラ探し」(仮題)のような、自分の好みのオペラを探す、わかる、、見つける!講座を企画しようと思っています。

好きなオペラは?と尋ねられて、すぐこれ!と答えられる方は、結構な数を既にご覧になってると思います。

が、未だオペラ初心者の方は、何が好き?と言われてもわかりませんよね。

沢山観るのが一番ですが、それも大変。

そこで、この企画を思いました。

また、企画が決まったらお知らせします!

そして、こんなことが知りたい!ということがあったら、お気軽にコンタクトしてくださいね。

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